T-OFFICE
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- 東京都目黒区, Japan
- Any
- 2000
恵比寿ガーデンプレイス界隈は不思議な場所である。ここを訪れる人のほとんどは、JR恵比寿駅からのスカイウォークという動く歩道のチューブの中で加速され、ゴチャゴチャとした古い街並みの頭上をワープしてやってくる。身体的な知覚をもとにした都市構造の把握と頭の中のバーチャルな都市のマッピングの関係が途切れてしまって、この巨大な複合施設が本当に恵比寿という場所にあるのだろうかと、ふと思ってしまう。周囲に残る古い街並みとのギャップがその感覚を強めている。フィジカルな建築の空間が場所性を弱められ、情報が流動的にイメージ上の空間を形づくり、重ね合わせたエレクトリックシティであるといってもよいだろう。「T-office」の敷地はそういう場所にあった。
そして、情報テクノロジーが飛躍的に発展し個人の生活が多様化している現在では、店舗・事務所・オーナー住居というここで求められたアクティビティは、フィジカルな建築の空間に内包されるものではなく、流動的なイメージ上の空間の広がりとして都市環境にはみ出し結びついているものととらえることができる。建築の空間の場所性、内部への求心性をできるだけ弱めるようにつくることで、そのアクティビティが都市環境の中を浮遊する様をとらえられるように思った。
計画にあたって行ったことは、この建築の輪郭を交差点角にある敷地の形を包絡する適当な曲面で決定することと、その曲面に開口部をバラバラに配置することだけだった。輪郭は現場溶接で1枚につなぎ合わせたスチールシートでできている。建築を一切目地がない物質性の希薄な素材でひとまとまりの空間として覆い、外観から内部の空間構成をトレースできないようにすることで、フィジカルな建築の空間と内部のアクティビティの関係をずらし、建築のもつ求心性を弱めたかったからである。開口部には2重のメッシュスクリーンがはめられている。周りの風景をバラバラに分解して、2重スクリーンの光の干渉作用の中に映し込み、匿名の風景に変換した上で建築内部に取り込むことで、内部のアクティビティの場所性を弱めて周囲の都市環境と流動的に結びついたものとしたかったからである。フィジカルな建築の空間とアクティビティの広がりとしてとらえたイメージ上の空間の、流動的な重なりの状態を取り出すことがここでの試みであった。