谷中霊園の入口にある登録有形文化財の老舗「花重 (はなじゅう)」の改修計画である。
度重なる増築で建物が密集していた敷地内を間引き、敷地の奥は庭として谷中のまちに開いた場をつくった。保存にあたっては、ある時代に巻き戻して保存するのではなく、将来にも変化し続けることを受け止めることによって、生きたまま建築が保存される状態をつくることができるのではないかと考えた。それぞれの建物は時代ごとに異なる架構を持っているが、音楽の拍のように繰り返される寸尺の架構のリズムを、建物群に通底する時代を経ても変わらない「律」と捉え、それぞれの建物の架構を現しとして空間をつなぎ、既存の架構を連続させるようにして新たな架構を庭へと伸ばした。
新設フレームは、かつての伝統的な木造架構が技術の粋を集めてつくられたように、現代の技術を駆使した極めて精度の高い機械加工による鉄骨の継ぎ手を用いて実現することとした。
新たに加えるエレメントは全体を横断するように配置することで、新旧や屋内外、人と植物を連鎖的につなぐことを考えた。骨格としての「律」が空間のベースにあることで、エレメントやアクティビティが変化していくことを受容し、変化し続ける生きた建築となることを目指した。