Foto © Ken'ichi Suzuki
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Sede
静岡, Japan
Anno
2009

白の質量

南方に太平洋を見下ろす伊豆山の中腹に敷地はある。
西側と北側をナラや山桜等の落葉広葉樹からなる天然林に囲まれ、豊かな自然環境に恵れているが、ほとんど地山の地形そのままで、建築に十分な平場は見当たらない。
ただ、敷地内を南北に縦断する尾根線から少し東に降りた肩状の部分に、仄かに建築の兆しが認められた。
用途は週末住居。
通常のように建築に合わせて複雑な自然地形を造成し単純化する手法も、逆に地形に合わせて建築の方を複雑にする手法もここでは採っていない。
複雑で多様な自然はそのままに、しかも建築は単純且つ純粋に自律した状態を求めた。
どんな自然にも潜在している純粋形式の顕在化、言い換えれば「自然の抽象」ということである。
具体的には建築は厳密な直角を保って重ねられた「2本の白大理石製の直方体」として実現した。
個室群と浴室を内包する下側の直方体は、敷地に当初から存在していたわずかな平場にその半身をはみ出すように設置され、サロンと厨房をもつ上側の直方体はその上と尾根地形に跨がるように置かれている。
偏芯した「十」字形が自然地形にそっと留められている、と言えば正確だろうか。
十字は一方の軸を南の太平洋へ、他方は西のナラに少し白樺の混じる森林へと向けていて、下段の直方体内の空間とその上面であるテラスは海と広大な空へと開かれ、上段の空間は自然林の奥へと静かに分け入っていく。
重なり合う十字の形式は、東側の車道やリゾートマンションを視界から遮り、また下側の直方体のプライベートな性格の空間と上側の直方体のパブリックな性格の空間を干渉させずに分け隔てている。
また、起伏のある地形上に平滑な立体が置かれているので設地面は極めて狭く、その結果、基礎と地形の改変ボリュームを最小化している点も、この形式のもつ特徴によるものである。
以上のように、自然環境から見出された「十」字形という「形式」は多くの「解決」を計画に与えてくれたが、同時に「解決」に留まらない新しい環境の質を生み出したのは、「形式」ではないもう一方の建築要素である「質量」によるものである。
通常建築で使われる「白」は「質量」を拒絶し、純粋に「形式」の意味を表現する為に用いられてきたが、ここでは厚みと研磨による肌理と反射が厳密にコントロールされた白大理石として、むしろ「質量」の存在を積極的に表明している。
それは、質量の加算された白、である。
既存の多様な質の連なりである自然環境の中に 質量の加算された白 が新たな質として加わることで、形式の操作だけでは実現し得ない、実環境の質のゲシュタルト変容が行われたのであり、それこそが今回デザインの対象として意識されたものである。
形式の操作に留まらない建築の領域が我々の関心の対象となってきている。

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