雨晴れの住処
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- 東京, Japan
- Anno
- 2008
「雨・晴れ」
気候の中の建築 敷地は、温暖湿潤気候帯から熱帯雨林気候帯へと、近い将来、移ろうとしている関東平野中央やや西寄り、東京都内の低層高密な住宅地内にある。 求めたのは「住宅」というよりも「居住」を誘発する永続的な「地形」。 そして、この地形を予定調和に陥らないよう発見的に「住居」へと整えていく、そのような意識で計画を行った。 高い居住のポテンシャルを有した地形を求める、と言うからには、建築は抽象的な形態論に留まらない。 地形とは岩石や土壌という具体的な物質が、地域毎に異なる気象の中で長い年月の間応答してきた結果であるからである。 素材と気象の最適な応答関係を見出し建築化する。 これは現代建築の文脈が無視してきた気象や素材、経年変化の諸問題をデザインファクタへと再び取り込み、建築的恵みへと転換しようとする試みでもある。 「永続的に存在する地形」を実現する構造・素材の探求から始まった。 実際の地形のように構造と仕上げが一致する既存技術としては「RC打放」があるが「永続性」という点では問題がある。 雨水による壁表面からのアルカリ分の融出はその寿命を極端に短くしているし、化粧合板型枠による平滑な表面は竣工時は良いが、風雨に晒されることで数年後には悲しい歳の取り方をしてしまう。 そこで新たに型枠構法を開発し、約@500mmでh=18mmの水切りを持つ彫の深いRC打放を実現する事で、アルカリ分の融出や汚垂の問題を解決した。 更に型枠は化粧合板の代わりに針葉樹合板を用い、木目を壁面に転写する事で肌理を粗く仕上げ、ジーンズのヨレのように経年変化を美的な要素へと転換した。 上記の構法で作られるRCの量塊を敷地を斜めにスラッシュするように配置する 。これによって発生する2つの外部空間は、道に面した北側をパーキングに使う「外庭」、南側を母屋と隣家に守られた風の穏やかな日だまりの「内庭」へと性格づけられる。 「内庭」はプライバシーもセキュリティーも確保されるので、建築は南側の明るい庭と「大きな空」へと開き、これを取り込む事ができる。 また立体的にも矩形からずれたジオメトリーは既成の空間型に収まらず、各所に「闇」が生み出される事と合わせて、空間に奥行きと流動性をもたらしている。 内部には、大きな空の下の暮らしがある。 外部は、晴天時には外壁の凹凸が強い陰影を生み出し、雲天時には湿度をたたえて黒々とした岩山のようになる。 そして、雨の日には水滴のレースをまとう。 「空模様」が変化するのに合わせて、建築もその様相を変えていく。 気候と呼応する現代建築が生まれたのである。