写真 © Kenichi Suzuki
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海辺の家

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場所
神奈川県真鶴町, 日本
2013

開いた秩序がもたらす空間の流動性と滞留性

真鶴半島の付け根近く、南へ向かって下っていく丘陵地が、いったん勾配を緩める肩のような地形上に敷地はある。周囲を取りかこむ広葉樹を中心とした雑木林の向こうには、太平洋がおおきく静かに広がっている。ここに家族とその友人達が週末を過ごすゲストハウスを、というのが施主の希望だった。
その豊かな自然環境の中での建築に際して、都市型の生真面目で自己完結的な秩序の導入は相応しくないように思えた。参考になったのは施主の趣味だというビーチコーミングの考え方である。浜辺に打ち上げられた様々な素材を、それらの性質や声を良く聞き取ることで、材がなりたい形に整えるように立体を組み上げていく。この時、秩序は絶対的な支配者というよりも、材や環境との関係によって次々に変容する動的でしなやかな存在である。求めるのはそのような「開かれた秩序」のあり方である。
具体的には、@900mmで連なる38mm厚のLVLの柱-梁架構群を、太鼓に落とされた天然木の桁-柱架構で受けることで成立する「L字型の壁-屋根」の単位をつくる。これを大・中・小、3つのスケールで用意して、それぞれが内外に高さの異なるテラスや不整形なコーナーを各所に生み出すように、半ば互いに乗り合った関係を保って配置した。その位置・角度は、厳格な幾何学で概念的に決定するというよりは、自然地形のコンタラインや海への視線、既存樹木やその枝振りといった周囲の自然環境や、材の量感や肌理・密度といった物質の声、また空間の流動性と滞留性の配分といった様々な具体的な尺度から、それらが互いに調和した関係になるように調整的に定められている。
でき上がった住環境には、厳格な秩序が一意に支配する怜悧な硬質さこそないが、そこにある全ての要素が、一連の「対話関係」の中にあるような、緊密な「調和」が生まれている。この対話関係は、建築に用いられた秩序自体が環境に由来した開かれた性格をもっているため、海・森・地形といった周囲の自然までをもとり込んで、境界なく広がっていく。この、世界と一繋がりの「おおらかな調和」の中に身を置く経験こそが、我々のデザインの目的であったようだ。

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