写真 © 西久保毅人
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図面 © 西久保毅人
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図面 © 西久保毅人
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新さんの家

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場所
東京都杉並区, 日本
2018

「街のふりをした住まい」

敷地は住宅密集地であるが、街はのどかな雰囲気である。
たとえば周辺の道路上には堂々と桜の大木が点在し、行き止まりの細い路地も多い。車が進入しにくい代わりに子育てには安心で、人間のスケールを感じるエリアでもある。都会の住宅地では、車を持たないライフスタイルを選択する世帯も多い昨今を考えると、一周回ってむしろ「21世紀型住宅地」と呼んでみたくなるエリアだ。

新さんの家は、その街の袋小路の突き当たりに計画した住宅である。
敷地は69㎡と広くはないが、前面道路は「突き当たり」であるため数世帯の近隣住人以外の歩行者の通行はない。とはいえ道路に生活がむき出しでは、カーテン閉めっぱなしの風景が目に見えている。

そこで道路境界線に沿って、高さを抑えた塀を作り、暮らしの領域を作ると同時に街とつなぐ役割を持たせる事にした。塀はいかにも「塀」に見えるよりも、建築のふりをさせる事にし、屋根をつけて、内外の仕上げと同一の仕上げとした。開口部に建具がない事だけが唯一、塀である事を気づかせる程度に。

壁の仕上げは、この塀の仕上げ材を家中のベースと設定し、各階に展開している。
要望としては小部屋を多く求められたが、その事が住空間の奥深さに繋がる様、1、2階は回遊動線とし、さらに各部屋の仕上げは、それぞれ鮮やかな色に切り替えている。

道路側の庭に面した部分は、2層分の吹き抜けとし、各部屋への採光と共に、街と接している場所である事を感じさせてくれる。小さな生活と街の間に、同一素材で包まれた「吹き抜け」「庭」「塀」の3種類の要素が挟み込まれる事で、「近いのに遠い」「繋がっているのに守られている」というような層状の体験を作り出そう意図した。

考えてみると桜の木の生えた道路は、道路のふりをした公園と言えなくもないし、袋小路は、道路のふりをした安心できる遊び場とも言えなくもない。それらは計画的なものではないけれど、そこから学ぶ事は多い。特に小住宅の場合、大きな一手よりも、小さなしつらえを重ね合わせていく事が重要だ。

同時に質感や、素材の効果も、空間小ささゆえに大きい。
「建築のふりをした塀」 
「外のふりをした吹き抜けや素材」
「広いふりをした回遊動線や開口部の設計」などなど。
いろんな「ふり」を重ねあわせる事で、最終的には体験として「街のふりをした住まい」を建主が獲得できる事を意図した。

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小さな平面ですが、パントリーや裏動線を確保しているので、オープンな台所でも大丈夫です。
僕は小住宅では、このような玄関の向こうにWCがあるプラン、好きなんですよ。気を使わなくていいし。

玄関食堂から見える、緑色と黄色のパッチワークの和紙と桜色のちぎり貼りの和紙は、ハタノワタルさん施工です。

2階に登ると、吹き抜けのまわりを、回遊できる動線になっています。3階から、階段を見下ろすと奥に見えるのは、隠し部屋のような、天井が低くて小さな和室。この和室は、洗面室からしか入れないという、謎の動線。

さらに、斜線制限のため、奥は50センチくらいしか高さがないのですが、とても落ち着く部屋です。この部屋の和紙もハタノワタルさんの和紙ですが、貼るのは、みんなで貼りました。

街と暮らしの間に、弱くて小さなしつらえの「層」を作ることで、プライバシーを守りつつ、「わが街!」と思える暮らしを手に入れることが、できるのです。
どこまでも、街の続きのように。

構造:筬島建築構造事務所
施工:宮嶋工務店 
協力:ハタノワタル(和紙職人)、平鍛冶(特殊金物)、高橋園(植栽)、ポーターズペイント(特殊塗料)

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