かざぐるまの家
プロジェクト一覧に戻る- 場所
- 大分, 日本
- 年
- 2012
落ち着いた環境を作る
地方都市郊外に建つ住宅である。敷地周辺は徐々に農地が宅地化されてきた地域であり、田園風景と多様な建物が混在した混沌とした景観になっている。こうした中に、一つの落ち着いた環境を作りたいと考えた。広い敷地全体を一つの庭と捉えて、その中央に住宅を配置した。ワークスペースを併設する大きな駐車場は、通路を介して敷地奥に配置することでその存在を消した。道路側から見ると来客用の駐車スペースと季節感のある木々の向こうに平屋の住宅だけが見える。
中心のある家
夫婦と3人の子どもたちという家族構成である。まず、建物の中央に家族のための大きな居室空間を取り、そのまわりに各個室と厨房、洗面・浴室などの小部屋を配置している。平面は小部屋の箱から屋根面を持ちだしたかぎ型のピースを4つ組み合わせて、かざぐるまのような形とした。中央に一つの回転軸を持つ、ほぼ点対称の形である。天井が高い居室空間には四方に大きな開口を設けていて、各方向の庭を臨むことができる。4つのピースの接合部には、大きな空間に自然光を導くために細いスリット状のトップライトを取った。このスリットの交点がこの家の中心を示している。
木で包まれた空間を支える構造
暖かみのある空間を作るために、構造材である地場産の杉材の肌をそのまま生かした木造とした。建物まわりの地盤面は道路面より50cm程高くしており、基礎は浅層地盤改良をした上にコンクリートベタ基礎として床レベルまで1m程上げ、建物をできるだけ乾燥状態に保つことを考えた。屋根全体とそこから連続する外壁には、母屋垂木あるいは柱となる構造リブを450mm間隔で入れ、そこに杉の小幅板を張ることで、平面剛性を確保している。外壁から連続した居室空間と諸室を隔てる壁は在来工法を用いて、リブのある壁から続く屋根面を途中で支えている。4つの屋根面はそれぞれをしっかりジョイントすることで、互いが支えあい、大きな無柱の空間が実現できた。リブのある構造部材はそのまま内壁の仕上げとして表し、外皮側に断熱と通気層を取り、その表面を防水材と耐候性の高い亜鉛メッキステンレス板で覆った。床にも表面強度のある杉の圧縮材を用いることで、空間全体のイメージを統一している。
包みながら開く室内空間
地震災害だけでなく、近年の風水害はこれまでの建築設計の想定を超えつつある。屋根と外壁が連続する特徴的な形態は、様々な樹木に囲まれた環境の中で、樋を作らずに雨水を処理するための工夫でもある。建物を包む皮膜は、雨や日差しや寒暖といった外部環境から室内空間を守るために必須だが、逆に開口部は、採光、通風や風景といった外部環境を取り込むために必要となる。この矛盾する2つをバランスを取りながら調停しなければいけない。建物の全方向にほぼ等しく開口部を取ることによって効果的な通風と空間の開放感を確保し、最小限の面積のトップライトにLowEガラスを用い、互いの梁をつなぐ構造材として機能するリブ材が、熱負荷を抑えた採光を可能にした。
緑の中にたたずむ生き物
道路側から見ると豊かな緑の向こうに落ち着いた色調の建物がたたずんでいる。建物全体を覆うグレーの菱葺きは何かの鱗のようでもあり、大きな生き物のようにも見える。家族の成長とともに建物とまわりの緑も徐々に変化してゆくだろう。長い時間を経たとき、これが土地を覆い尽くす林を守る主のようになってくれないかと密かに期待している。