正和幼稚園

東京都, 日本
写真 © 矢野紀行
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建築家
中佐昭夫/ ナフ・アーキテクト&デザイン
場所
東京都, 日本
2019

1960年代末に造られたマンモス団地の一角にある幼稚園の建て替え計画。

東京の郊外には幾つもの団地があるが、その中でも日本住宅公団(現・UR都市機構)が町田市に開発した山崎団地はかなり規模が大きい。住宅戸数は約3900戸で最盛期には1万人以上が住んでいたと言われており、正和幼稚園はその住人のために設置された。

しかし今では少子高齢化が進み、6割程度まで居住者の数が減っている。正和幼稚園の在園児数もその影響を受け、建て替え計画前には定員を大きく割り込んだ時期もあった。近年では団地内から来る園児は10名以下で、残りのほとんどは自家用車か送迎バスで団地外から通っていた。もはや団地住人のための幼稚園とは言えない状況だった。

園舎は約50年を経て老朽化し、団地の少子高齢化がさらに進む中、補助金によって建て替えの機会が訪れた時に、一番の命題は「いかに団地外と関係づけられるか」だった。

幸いにも幼稚園は団地の南西端にあり、団地外に向かう大通り(団地いちょう通り・八王子町田線)からのアクセスもいい。したがって、大通り側にある今の園庭に新園舎をつくり、竣工したら大通りに対して奥側にある旧園舎を解体して、そこに新たな園庭をつくることになった。園庭と園舎の配置を逆転させることで、アクセス方向も団地内外に対して逆転させるという考え方だ。

園舎計画においては2つの条件があった。1つは「運用しやすさと安全のため、すべての保育室から直接園庭に出られるようにすること」だった。したがって外壁をゆるやかにカーブさせた長い建物(A棟)を奥側の園庭に接して配置し、その1階にすべての保育室と職員室を並べ、各部屋から掃き出し窓とデッキを介してそのまま園庭に出て行けるようにした。外壁をカーブさせたのは、まっすぐよりも園庭に接する外壁を長く確保できる(=各部屋の間口を広く確保できる)からであり、同時に約50mの長さになる建物の内観・外観が単調になるのを避けるためでもある。

逆に大通り側にはバスも停車できる外来駐車スペースを設け、それを包むように遊戯室とキッチンが一体化した建物(B棟)を配置し、園の関係者だけでなく、将来の入園希望者・来客・地域住民を想定したイベント会場として利用できるように設えた。

もう1つの条件は、補助金のルールで「A棟とB棟の合計面積は旧園舎と同じでなければならない」というものだった。しかし約50年前に建てられた旧園舎の面積は、現代の保育条件から考えると明らかに足りない。したがってA棟とB棟に隙間をあけて配置し、上部に光を通す膜屋根をかけ渡して、アーケードと名付けた。そこはカフェテラス・保育室の拡張空間・エントランスホール・廊下など多目的に使える半屋外空間だ。A棟・B棟・アーケードを一体的に使うことで、旧園舎の約1.2倍の床面積を擬似的に確保している。

旧園舎を解体して新たな園庭を計画する際、できるだけ既存の樹木を残すことになった。約50年前に植えられた苗木は大きく育って、そのうちの幾つかはシンボルツリーとして親しまれているからだ。そのうえで、例えば年に一度しかない運動会のために平らで何もない場所にするのではなく、園児の日々の活動に豊かさをもたらす自然環境をつくる、というのが園庭計画の基本方針になった。それに沿って築山や井戸水を使った水場をつくり、いつか既存樹木のように大きく育って森になるようにと、350本以上の様々な樹木を植えた。

中には華奢な苗木もあって、しばらくは園児たちが立ち入らないようにロープを張ろうか、という話も出たが、そのときに理事長が「むしろ園児たちにジョウロをもたせて、苗木に水をやって大切に育てることで関わり方を教えよう」と発した一言は、園庭計画だけでなく、園の保育方針や地域活動における理念を包括しているように感じた。区切るのではなく、関わっていこう、ということである。

その理念をA棟とB棟にかけ渡した開放的なアーケードによって表象し、長く続いてきた幼稚園の今後に向けて、園庭の樹木とともに新たな関係が育ってゆく場になればと考えた。

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