倉俣史朗のデザイン〜記憶のなかの小宇宙
富山県美術館, 日本
没後30年を迎えたこの展覧会は、倉俣史朗の家具やインテリア作品だけでなく、彼の創作の源泉を辿るため、イメージスケッチや夢日記、作家自身の言葉を用いて、デザインと共に人間としての倉俣史朗、その人物像を伝える試みです。作品自体を見たことがある方も多いかもしれませんが、それを手がけた人物がどんな人だったのかを知ることで、新たな視点が得られるでしょう。その問いを出発点として、展示空間のデザインが始まりました。
この展示では、初公開となるスケッチや倉俣自身の直筆の言葉が、職人の手や機械による緊張感のある直線や曲線と対比的に配置されています。フリーハンドで描かれた柔らかなラインと、家具やインテリア作品に見られる精密なラインとのコントラストを、一つの空間に共存させることを目指しています。また、展示に使用する什器は新規に制作せず、既存のステージをリペアして再利用しています。これは、環境に配慮した設計であると同時に、倉俣の作品に見られるリサイクルや再利用の精神とも共鳴する取り組みです。
展示構成は4つの部屋に分かれ、1章から4章まで時系列に沿って展開されています。前半の1章と2章では、立体作品をステージ上に配置し、1章は1列、2章は2列と異なるレイアウトで作品が並べられています。透明感やモノトーン、光を取り入れた作品の素材によって、その時代性が際立ちます。
後半の3章と4章では、フリーハンドのラインがさらに拡張され、来場者はスケッチの中を回遊するように展示を楽しむことができます。作品は床に直接置かれ、使用時の高さで鑑賞できるよう工夫されています。フリーハンドのラインに沿って展示作品の下には、富山県美術館で過去に使用された展覧会のチラシを細かく裁断した紙片が敷き詰められています。これにより、展示空間と来場者の一体感が生まれ、雪や砂を連想させるような視覚体験が楽しめます。シュレッターを使ったこの紙片の配置は、曲線の敷き込みに適しているため選ばれました。これらの紙片は地元のボランティアの協力によって制作されました。このように大量の紙片を制作する作業は大変だったと思われますが、美術館の所蔵品展示に関わる喜びとして、協力していただけたと聞いています。
「ミス・ブランチ」は、霧のようなベールに包まれ、ゆっくりとその存在感に引き込まれる展示です。軽やかなカラーアクリルの家具は、やや明るく照らされた白い壁面を背景に、来場者の没入感を誘います。
富山県美術館
開催期間 2024 年 2 月 17 日(土)~ 4 月 7 日(日)
