52間の縁側
千葉県, 日本
- 建筑师
- 山﨑健太郎デザインワークショップ
- 位置
- 八千代市, 千葉県, 日本
- 年份
- 2022
建築によって忘れてしまったものを思い出す
「52間の縁側」は、高齢者のためのデイサービスである。クライアントの石井さんは、認知症などシリアスな問題を抱えていたとしても、ありのままその人らしい日常の暮らしを送れる介護を実践してきた。この計画では、認知症や障害があっても、さらに言えば年老いていくことが、日常と切り離されずに過ごしていけるような環境の実現を目指して計画された。
敷地は南北に細長く、崖条例により建物を建てられる範囲が限定されている。悪条件ではあるが、奥行き2.5間を持った縁側のような床を一直線に設け、メインストラクチャーである木架構と、さまざまなアクセスがある開かれた縁側で地域に対する構えをつくろうと考えた。そこに街の人が利用する「カフェ・工房」、「高齢者が過ごすリビング」、「はなれのような座敷と浴室」の3つの機能に外部スペースを挟み込んで配置している。大きな構えとしての架構に対して、負けるように小さな壁やボリュームを挿入して、ひとのための小さな場所を散りばめていった。特に、挿入された建築要素の境界、つまり窓辺を丁寧に設えた。例えば、カフェとテラスの間の窓辺にはデイベットを設け、厚みのあるニッチに体をあずけられるように寸法や建具の種類、素材の選定を行うことで、一人だけれど、他者と一緒に過ごせる「居方」を生み出している。
この場所は、地域のNPOや石井さんの仲間たちの協力により、さまざまな人たちにとっての居場所となっていく予定だ。他者の手を借りたい近隣のひとり親家庭や、不登校などの子どもたちにとっての場所になればと皆が考えている。ここに集まる高齢者、障害者、子どもたち、地域の人々、これから彼らの関わりが少しずつ始まろうとしているのだ。地域にじんわりと馴染んでいくために、庭の池や竹穂垣は、地域の人たちにも協力してもらい一緒につくってきた。賑やかなワークショップでの出来事ではあったが、さまざまな人たちがこの場所で過ごすさまを見ていると、この建築は橋のようにも、お寺のようにも見えてくる。みんなが縁側でおにぎりを頬張る姿を眺めていると、この建築は、近代日本が無くしてしまった大切なものを思い出せてくれる。
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