南方熊楠記念館新館
和歌山県白浜町, 日本
- 建築家
- シーラカンスアンドアソシエイツ
- 場所
- 和歌山県白浜町, 日本
- 年
- 2016
南方熊楠は、膨大な知識と行動力で人々を魅了し、没後75年たった今もその思考は色褪せることなく、再読され続けている。なかでも日本で最初にエコロジーを訴え、神社合祀反対のために膨大なエネルギーを費やしたことは有名であり、そこで熊楠は仏教の「相即相入」という概念から自身のエコロジー思想を組み立てている。これは、人間と自然のあいだに断絶がなく、両者が互いの中に入り込んでいる状態を意味しており、熊楠が守りたかった社のような、建築と自然が互いに侵食し合うことで、ひとと自然とが相即相入する空間を目指した。
番所山をのぼり、鬱蒼とした森を抜けると、昭和天皇が熊楠を思って歌った御製碑が既存本館への来館者を迎えるようにして建立されている。この御歌碑と既存本館との間、約40m×幅10m程度の限られた敷地の中で、既存本館までの工事車両動線を残すと同時に、要求される展示面積を確保することが必須条件であった。そこで、1階を半屋外のピロティ空間にして車両動線を残しながらも豊かな自然を建物内部まで引き寄せることを考えた。2階のヴォリュームは、構造に無理のない形状(キャンチをしない、杭基礎としない)で要求された床面積を確保するため、緑の縁をなぞるようにして、有機的な平面形状で敷地を最大限に活用することを提案した。このヴォリュームにシリンダー状の吹き抜けを貫通させ、森にうずまり暗くなってしまうピロティ空間にやわらかな自然光を注ぐ。
樹木や地形、周辺のコンテクストを尊重し、敷地が建築を規定するようにしてできた形態は、樹木の伐採を最小限にとどめ、自然のなかにすべり込むようにして緩やかな曲面が建物のエッジをぼかす。建物の外観が緑や御製碑の背景に取り込まれることで、半アーチに寄り添うように、人々のアクティビティが浮かび上がる。
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